Hyper Carronade

灰色のはい

創作について

荒木飛呂彦先生の漫画術を読了した。
もっと早く読みたかったねえ。為になった。漫画愛が深い。
前々から薄く知ってた事だけどこの本を読んでも改めて自分には論理的に分析したり組み立てるという事が足りてないと思った。いきなり細かいシーンから描き始めるから後からキャラクターの気持ちに矛盾が出て何回も書き直す羽目になる。最初に大きなところからざっくり概要とキャラクターの行動の根拠を明らかにしないと。
空木はストーリー重視してしまうんだけどそれも良くないらしい。キャラクターが第一。キャラクターが成長する姿を読者は望んでいる。しかし、私の好きな漫画家さんの作品は本著を踏まえた上で思い返すとストーリー重視の漫画だと思う。荒木先生の言う世界観とストーリーの違いがあまりついてないけど。いや、人物の心情変化を素敵に描く作家さんなんだけどそうなるとやっぱキャラクター重視になるのか?分からなくなってきた。
勿論荒木先生も本著で仰ったように漫画術に正解は無いし個人個人で違うものだから全部真似するつもりは無いけど、漫画に対する姿勢はとても尊敬しているのでそこは真似したいと思った。あと論理的な組み立て方。

という訳で自分の書いてる漫画に対して不安になったので早速創作漫画(既に4話目まで描き終わってるやつ)について真面目に分析がてら文字起こしをし始めた。

以下ギャ運の全体のお話のちょっとネタバレ含有。
ネタバレしても大丈夫な漫画か分からないけど、長編漫画としてはまだ2作目で試行錯誤の中の作品だから、ここで概要を知って今後どう空木が描いていくのかを含み笑いで見届けるのも一興かもしれませんね。

 

 

まず漫画術の中で強調されていたのが「最初の1ページを読者(または編集者)にめくらせる事」。特に編集者は月に何十本も新人賞の応募作を読んでいるプロなので1コマ目を見ただけで「あ~この漫画はこういう感じね」って分かるらしい。何かの二番煎じ漫画は読まれないのでそのまま1コマ目を見ただけで袋に戻されるなんて事がよくあるらしい。なんて恐ろしい世界なんだろう。
という訳で最初の1ページは死ぬほど大事で、なんとなく描くのはご法度なんだそう。
とは言えギャ運においてはもう既に4話目まで描き終わってしまったので取り返しがつかないんですよね…。もっと早く読めば良かった…。
今読んだ上で描き直すとすれば、まず宇宙の中に浮かぶ居住スペース的な奴に全裸の男が浮かんでいる、ここはまあそれなりにインパクトがあるはずだから良いとして、早々に彼の口から「ギャラクシー運送」「荷物を届けなきゃ」等仕事内容についてのワードを出させるか。理想のアーリーモーニングタイムスケジュールについては一応伏線だけど大事な出だしで出す伏線では無かったな…。二話目以降にそれとなく入れるくらいで良かった。まあドライバーさんというキャラクターがなにやら高い理想を持っているという事と普通の地球とは時間の流れが違うという事が情報として入れられたから悪くはないのでは…。とにかく最初は漫画の方向性を伝える、漫画の「予告」みたいな方が読者は付いてきやすいのだと。

で、漫画において大事な項目がキャラクター、ストーリー、世界観、テーマ。それを包括するのが絵と文字。それぞれ文字に起こしてみましょうかね。


テーマ


ギャ運のテーマはざっくりと愛ですかね。ざっくりしすぎるからもっと狭めてみるとたくさんあって、模倣と自我、救済と肯定、人と人の距離、やり取りなどなど。一番描きたいのは、上記で言及した好きな漫画家さんが書くような、人物同士の気持ちのやり取り(影響を及ぼしたり及ぼされたり)だな。そういう交流がメインのエピソードを交えつつ、冥王星に向かう訳だけど。


ストーリー


ストーリーの大筋は、というかそもそもドライバーさんが持つ動機は自分が愛される、正常な自分でいられる、そんな世界に逃げたいっていう、ちょっとマイナス地点からのスタートなんだよね。ストーリーとしてはその解決の方向に動く。
ここで漫画術から有難い教え、「(少年漫画は)プラスへプラスへと、プラスを積み重ねていくのが基本」。トーナメント制が手堅いやり方だそうだ。

プラスになる途中で壁にぶつかってマイナスになるのは良くないらしい。なぜならマイナスになった回は読者もマイナスになってしまうから。
ジャンプだって一週間に1話ずつな訳で、その一週間負けムードでいるのは嫌だしその次の週読んでもマイナスが続くようだったら見なくなるよね。実際荒木先生の代表作ジョジョの1部目の最初期、ジョナサンがディオにやられ続ける展開が続いた時は人気投票の結果が芳しくなかったそうな。やられるヒーロー見てもな。面白くは無いよな。
このマイナスっていうのはバトル漫画だったら負けて主人公が落ち込んだり戦う事に否定的になったり主人公が間抜け踏んで困難に陥ったり、なんていうんだろう、例えば戦い嫌になって逃げた主人公がストーリーを経て再び戦うってなった時、結局マイナス1が0になっただけで全体的に見た時特に進歩が無い、意味のないマイナスはNG。って事かな。マイナスから劇的にプラスになるならそのマイナスは意味があるんだと思う。
逆にゾンビ映画とかはマイナスから更にマイナスを重ねていく逆の方向に行く代物らしい。ゾンビ映画見た事無いから私には分からないけど。あとは人間が堕落に落ちていく漫画とかはマイナス方向に行くストーリー。

まあ、簡単に言えばストーリー最終地点までの道のりを逆行しない方が良いって事なんだろうね。

現実では何事でも一進一退を繰り返すものだけど、漫画の中でそういうリアリティは(少年漫画では特に)求められてないんだろう。

しかし今の時代、映画とかゲームが"体験"と化している中、漫画もよりリアリティのある"体験"に寄る時代が来るかもしれない。そうしたらこの常にプラス積み重ねっていうのも通用しなくなるかもしれない。
で話を戻すけどそれを踏まえた上でギャ運の向かう先は、ドライバーさんの孤独感の解消、模倣の呪詛の解除、地球への帰還、父様との和解、父様への妄信を辞め新しい人生を踏み出す、ってな感じになるのかな。
つまりこの旅でドライバーさんに船員たちと絆を深めつつ、自己肯定感を与えつつ、人に愛され人を愛すことを覚えさせなければいけない。
でもこれだとドライバーさんが受け身すぎるから、どこかで主人公らしく動き出すタイミングが必要だ…。愛着が湧いた船員達を何某からか庇おうとするとか。しかし元々そんなに船員達との仲は悪くないし、成長を見せるには少し強弱が無い気がする…。

クルーはともかくキャストは愛してくれたら冥王星連れてってくれるよね?っていう口約束があるからそこでどうにかなるか。
いや、キャストとの仲ばかり書いていてはいけないんだよな。クルーが一番ドライバーさんを助ける役割が濃いのに全く距離縮まってないよ君達!

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キャラクター


ドライバーの行動理念は物語全体としては「逃げたい」「愛されたい」「父様みたいな立派な人になりたい」。これはもう勘付かれている所だと思うけどドライバーさんもクルーもキャストと同じように地球での記憶を失っているので今物語を担っているあのドライバーさんには今の所「愛されたいな~」とか「立派で優しい人になりたいな~」とか地球への未練的な物とかがうっすらとしか残っていない。こう見るとなんか普通の人間の欲求に見えるな。でも諸事故により記憶の扉が開きつつあるので回を追うごとに記憶が夢としてフラッシュバックし夢が侵食してくるからこの欲求はどんどん大きくなっていく。過去の記憶に宇宙へ逃げてから築いた記憶が説教してハッピーエンドに繋がればと思う。
クルーの行動理念は「子供達(ドライバー含む)を守る事」「皆と仲良くする事」。宇宙に来る前は養育里親をしていたので圧倒的保護者力と光属性力を有す。ドライバーのクッションとなってくれ。
キャストの行動理念はただ「自分の欲求を通す」。「愛されたい」という部分はドライバーと同じ理念を持っているが今の所「愛したい」とは思って無さそう。とにかくキャストは自分の欲に正直。自由に生きる。望月時代にお客様に気に入られるように愛想良くしていた時もあったしただじっと座っているだけの毎日で我慢の連続だったその反動。というか記憶が無いのでこれが本来の姿。
アシャレットの行動理念は「ドライバーとの約束を守る事」「船員を救済する事」「船員の身体の安全を守る事」「観光案内をする事」。ドライバーに特に肩入れしているのは単に他の2人より顔馴染みで身の上を知っているから。ちびドライバーさんがアシャレットの経営する喫茶店にお茶しに来た時から目を付けていたから「貴方がたが見ていた夢と同じくらいの時間待っていた」。
ドライバーの父様の行動理念は「働く事」「息子が期待するような立派な人である事」「人類の希望である事」。ドライバーさんが、立派な父様と優良な家系に生まれた事で自分が皆に優等生である事を期待されているのを知っていて自分を殺して父様になろうとして失敗してしまった訳だけど、ドライバーさんが引け目を感じている父様もまた息子が自分をキラキラした目で見ているのを知っていたので期待を裏切るまいと仕事に励んでしまい寂しい息子VS忙しい父になってしまったっていう奴ですね。

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世界観


多分空木が漫画描くの好きなのは、自分の世界観に描く事を通じて浸っていたいっていうのが一番だと思う。世界観は、読者にも「浸りたい」と思わせてなんぼだそうだ。
一目見てこの作家さんの絵って分かる、というのは荒木先生曰くシンボル化が上手くいってる絵だという。空木はここが苦手だから没個性な絵なんだな。しかしシンボル化だけじゃなくて、リアリティも両立していかないといけない。
リアリティが必要なのは世界観を描くとき。特にSFとかホラー・サスペンスは。
描きこみ量自体もそうかもだけど、構造・仕組みとかを疎かにしない事。絵だけじゃなくて設定も、組織一個にしたってちゃんと練らないと、読者は綻びによく気が付く。作り込みが甘いと世界観に浸らせることは出来ない。
空木の漫画はよく世界観を褒められることがあるけれど、実は作り込みが甘いのは自覚している。多分世界観以外に褒められる点が無いのだろう。
※ギャ運をSFとは絶対に分類しない。作り込み甘いから。SFに対する冒涜になってしまう。
ギャ運は特にここ頑張らないといけないところだな。観光パートがあるから。その星に根差した料理とか文化とか宗教とかファッションの流行とか。冥王星に近づくにつれて地球の常識が通じなくなっていくと怖くて遠くに来た感じの心寂しさを表現できるかなー(相対的に馴染み深い船員との絆が深まる)と思っているけど、難しいね。
トランジットのバックナンバーが無料公開されていたので2冊分何ページずつか写真と文を模写したんですけど、どっちにも日本とは違うんだな~と思うような文化の違いが書かれていて、そういう違いを感じるのも旅の醍醐味だよな、でも自分たちの常識が通じないのって怖いよなと思った。
コロナが落ち着いたら旅したいよ。世界観を練るにしても実際に経験してみないと分からないことだらけなんだから。
まずは地形とその周りの文化の関係とか調べてみようかな。


まあこんなものかなあ。

文字起こししたことで色々見えてきたり見えてきていなかったりする。

頑張れるかな。

ていうか早く漫画一本でもいいから完成させないと…。