Hyper Carronade

灰色のはい

「1917 命をかけた伝令」をこの間観ました。

なんと、今年初映画です。なんと。映画観る前に一週間程度の力を溜める期間が必要なのでなかなかタイミングが合わないと観られないです。どうにかしないと。

 

戦争映画です。あまり好んで観る題材では無いのですが、なんといってもこの作品のチャームポイントが「全編ワンカット風撮影」で、予告映像の臨場感に惹かれて観に行った次第です。映像の良さで、同時期にやってる「ミッドサマー」も観る候補だったのですがちょっとネタバレとか他の人の感想見た限り空木の地雷ぶち抜きそうだったので、とりあえず映画館で観るのは辞めときました。ただレビュー見る限り音響の表現にこだわりを感じられるそうで勉強になりそうだったのでその部分だけ気になる。去年観た「時計仕掛けのオレンジ」もミッドサマーと同じく観るのしんどい系の映画とされてるけどアマプラでなんとか一時停止しながら休み休み観ることが出来たので配信きた暁にはその戦法を使って観てみようと思う。

 

で、1917の感想なんですが以下ネタバレになりますのでご注意を。

 

 

 

まずワンカット風撮影について、本当にワンカットっていう訳では無く実際はロングで撮ったシーンを繋げてそういう見せ方にしているらしいのですが、工夫したんだなーと感じますね。カメラの追うスピードと役者さんの歩くスピードを合わせていて気持ち良かった。臨場感は抜群。常時カメラが動いている。そのせいで弱小三半規管を持つ空木は激しく酔いました。

なんか、映画らしくない訳ではないんだけど、静止した画面で絵画みたいにカチッと見せるシーンは無かったからいつもと違う感じはしました。焦燥感がある。タイムリミットがあるこの作品に合っている。

ただ思うのは撮影方法が独特ですよーってあらかじめ言われていると、いざ映画を観る時に「このシーンどうやって撮ってるんだろう」ってメタ視点になってしまって折角の撮影方法で獲得した没入感を逆に殺してしまう感じはあるので前情報なしで観た方が良かったかも知れない映画ですね。予告のシーンもマジクライマックスの一番の見せ場だったからこの人はこのシーンまでは死なないし五体満足って分かっていたので途中のハラハラ感も安心感あるハラハラになってしまった。これはまあしょうがないのかな…。

でもストーリーはすごくシンプルだから観る人がメタ的になっても痛手にはならない。

なんだろ、映画鑑賞というよりはアトラクションに近かったかな。

アクション映画のような明るい派手さではなく人を殺す無機質で臆病で不気味で悲しい銃器の火花の明るさ。

戦争映画ってどういう心持で観たらいいか分からなくてかしこまってしまうんだけど、この映画は戦争の是非についてというより戦争時の再現性の方に力を入れているから、日本でよく夏にやっている戦争の悲しさを伝える悲壮感ダバダバで戦争反対思想のメッセージが強いドラマ映画よりスッとナチュラルに戦争の事が伝わってくる。こういう伝え方の方が私は好きだ。日本のはなんか選択想像の余地が無い、戦争ダメ絶対を押し付けられる感じで作品としては窮屈だ。まあ空木は戦争賛成してないし、そんなに日本の戦争映画見た事は無いのであんまり強く言えませんが…。この映画の中で、主人公が敵兵士の攻撃から命からがら川へ逃げて、川の流れが緩やかな岸辺に流れ着いた無数の兵士の遺体をかき分けて踏み台にして陸地にやっと辿り着いて、嗚咽を漏らすシーンがあって印象に残ってるんですが、全編通してほとんど主人公達の感情の吐露が言葉に依らないのもナチュラルさになっているのかなと思った。

この映画で人が直接死ぬシーンっていうのは実はほとんど無くて、死といえば戦地の跡に遺体が取り残されている状態なのがほとんどなんですね。それがこの映画の持つ静けさっていうか静の部分なのかなと思います。兵どもが夢の跡というかなんというか。

印象に残っているシーンはいくつかあるんですが、一番好きなシーンが一番最初の冒頭も冒頭のシーンなんです。それは塹壕の向こう側の平原の一本の木にもたれ掛かって目を閉じている主人公とその戦友のシーン。うろ覚えになってるけど、上官か何かが戦友の方に一緒に任務に当たる人を選ぶように言い、主人公に声をかけるシーン。

まあ普通の起承転結の起の部分なんですが、ラストシーンはこれと似た画面の構図で終わるんです。同じく平原の一本の木に主人公がもたれ掛かって目を瞑るんですが、もう全く冒頭の時と意味が違うんですね。それと被せて道中で桜の木があって戦友が主人公に木の話をするんですがその内容も相まって、見終わった後あの最初のシーンが私の中でも美しい思い出に変わってしまったんです。

映画館から出た後の気持ちはなんか「綺麗」だったんですよね。大抵映画観ると気持ちに多少濁りが生じるんですけど、純粋な綺麗な気持ちだった。それは終わり方が綺麗だったからだとは思うんですが、まさか戦争映画でこんな気持ちになるとは思わなかった。純粋さの綺麗なんですけど、寂しさ悲しさ虚しさの類もあって、一番近いのが虚しいなんですけど虚しいまで行かない、虚しいの一歩手前みたいな気持ち。気付きの部分。虚しいまで行くと「あ、無い。どうしよう、あーあ」までいくけど「あ、無い」で止まってる。まだ濁ってない綺麗な状態。そういう気持ちになった。

ミッドサマーじゃなくてこっちにして良かったと思った。

 

小さな映画館でちょっと遅めの時間で数人しか人がいなくて、帰る時間にはバスが無くて夜風に当たりながら映画の事について考えながら歩いて帰る。すごく心地良かったな。遅い時間の映画館って良いな。この感覚好きになれば映画もっと観られるようになるかな。なかなか遅い時間まで外にいられない空木ですが…。