Hyper Carronade

灰色のはい

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観て参りました。A GHOST STORY。映画館で映画を見るなんて一~二年振りくらいですかね。多分。曖昧なくらい久し振りです。

レディースデーで千円だったのでいそいそと遠出をして観に行きました。

この映画を上映している映画館が同県で二か所くらいしか無くてお給料日前の財布的にはちょっと交通費が痛かったです。

でもレディースデーの千円は嬉しいですね。ちょっと何を以て”レディース”とするのか、このご時世にはそぐわないようなサービスではありますが。

 

散文的な感想ですが、普通にネタバレするので悪しからず。

 

もっと温かみのあるほっこりストーリーかと思いきやそんな事は無かったんだぜ。

あらすじですが若い夫婦がいて、ある日音楽家の夫が突然死去して幽霊になってしまう訳です。その幽霊が病院から家に戻り居つき、残された奥さんと過ぎていく時間を、変化する家の様子から感じていく。といった感じですね。

殆どセリフは無く、状況が変化していくのを幽霊が黙って見ているんですね。時々派手にポルターガイスト起こしたりするけど。

温かいシーンというのはほぼ無く、切ない、悲しい、やるせない、という、まあ死別を扱う物で避けて通れない感情をもたらされましたね。でも、不思議と辛い訳じゃないというか、まあ辛いんだけどそこに苦みは混じってない。どこか爽やかなものすら感じる後味でした。切ない9割ですね。

あと印象的でぐわーっ好きーってなるシーンがいくつかあった。

ただ物語の動きが遅いというか、1シーンの尺をかなり長くとっていて、人を選ぶ映画だよなあというのはありました。私が劇場入りしたの3分オーバーだったんですが本当に十人くらいしかいませんでした…。

個人的にベッドシーンとかそういうのを匂わすシーンが死ぬほど苦手なのでそのシーンの間は早く次のシーン進んでくれ~と思ってました。

あとは奥さんが大家さん(多分)に貰ったでかいパイを食べてるシーン。これは好きなシーンなんですが結構尺長かったですね。なんというか、一緒に食べる人はもういないのにパイのでかさがやたら当てつけっぽく見えて、それを自棄になって食べてるといった印象を受けました。本当にここセリフ一個も無くて、表情とか鼻をすする音で想像するしかないんです。でもこの長さも含めてなんか、残された人の日常を覗く幽霊視点みたいな表現なのかなと思いました。この映画においてこの尺は端折ってはいけない大事な時間だと思った。

もしかしたら女優さん自身が吐き気を催すまで食べ続けさせたのではとも思いました。それくらい長かった。

音楽もホラーっぽくおどろおどろしくて、映画館だから特に効果的に聞こえました。結構大きな音でびっくりさせるシーンあったな。でも幽霊のビジュアルがシーツを被って目の所に穴が空いてるよくあるオバケ像でかわいくて、めっちゃ怖いBGMとちょっとギャップがありました。そういうギャップを狙っているのかな?と最初思いましたが、この映画の制作はアメリカで、日本人が怖がるホラーとアメリカ人が怖がるホラーは違うってヘタリアで読んだのを思い出し、もしかしたらこれはアメリカ人にとってめっちゃ怖いシーンなのかもしれないと思いました。

時間経過の描き方も今まで見た事無い感じで面白かった。動く世界と立ち尽くしたままの幽霊の対比が良き。

1つだけ気になったのが、冒頭の死んだあと幽霊になってずるずる病院を出る所で出てきた恐らくあの世へ行く窓とか扉的なやつ。なんであんなサイバーな感じにしたんだろう。今までの古き良きアメリカみたいな物の暖かみが残ってる世界には合わないような…そんな気がする。例えば廊下の壁に突然外へ行く階段があってめっちゃ光ってるとか、めっちゃ煙出てきてるごつい扉とか、床にでかい穴が空いてるとか。あそこはどういう意図があってあれにしたんだろう…。かなり丁寧な作品だからもしかしたら意味があるのかもしれない。それかそこに違和感を持ったのは私だけで別に何もおかしなことは無いのかもしれない。自信ないや。

めっちゃ好きなシーンは隣の家に居ついてる幽霊との対話。声は出なくて字幕が現れるんだけど、この対話が非常に私は好きだった。切なくて。隣の幽霊は誰かを待ってその家に居ついてるけど誰を待っていたのか忘れちゃったって言う。そしてやがて両者の居ついた家が両方壊されてぽつんと二人瓦礫の上に立っていて、隣の幽霊は「もう来ないみたい」と言い残して布だけ残して消えちゃうんです。ここホンマ身を捩る程好きでした…。あの消えたのは成仏って言って良いんだろうか。未練が無くなったって事だよね?もう待ってる人が帰ってくる場所が無くなっちゃったから、待つのを辞めたんだよね。切ない…。

あと好きなのはラストシーンと、自分が奥さんと生活してきた歴史のある家が壊されて、そこにビルが建てられて、田舎の風景がすっかり高層ビル群の明かりでたくさんになって、てっぺんから投身自殺(死んでるのに自殺とは)みたいな事をする所。相変わらずセリフ無いし表情も布でよく分からないのにこの悲しさよ。

でそこから過去に飛んだのが、私の頭が良くないせいでよく分からないんですね…。

とりあえず彼には未練があってあの家に居ついて、投身自殺したけど消えてはいない所を見るとまだ未練があるんですよね。

そもそも家に居ついているんだよね。引っ越してしまった彼女の後をてっきりついていくのかと思ってたけど。それは後の回想と呼べばいいのか分からないけど死ぬ前の場面で、この家には奥さんとの思い出、歴史があるからって引っ越しを渋る描写と、中盤で出てくるちょっとイった感じのおじさんの「遺す事は結局無意味だ」という演説とそれに対して怒ってポルタ―ガイストしちゃった描写があるから、この家は彼女と残した思い出、遺産って訳だから彼にとって家は大切な物なんだよね。

で未練っていうのは、映画のラストで彼は彼女が柱の隙間に隠したメモを開いて成仏したことから、その彼女が残したメモなんだろうけど、結局何が書かれていたのかこちらでは分からず。奥さんが冒頭でよくメモに詩とか思い出とかを書いて色んな所に隠すと言っていた。もうこの辺うろ覚えなんですけど、多分この家に住んでいた時の、彼と過ごしてきた時の思い出が書かれている…のかなあ。メモを開いた瞬間に消えたようにも見えたから幽霊がちゃんと読んだのかも分からない。でも読まなきゃ意味無いからやっぱり読んだんだよな。

まだその彼女と家に越してきたところへ戻るのは分かるんだけど、その前の家が建つ前の所のシーンは本気で分からない。親子がいて、家を建てようって仲睦まじく食事をしていて、シーンが変わって父と娘の一人が矢に刺されて死んでいるシーン。お母さんと他の子がいないから、待っている間に死んじゃったのかな。もしかしたら隣の幽霊はこのお父さんか娘さんの幽霊かもしれないと思ったけど、どうなんだろう…。隣の幽霊の布に模様があったように思うんですよね。あれ?隣の幽霊二体いた?本当にこのシーンだけどんな意味があるのか考察ができない!脳が足りない…。

でもすごい丁寧な映画だった。セリフが少ないからこそ余白に幽霊がただ残された者たちの進んでいく世界を黙って見つめているその図が際立つ。逆にもうどちらが残されたのか、どっちも残された者だよね。

私は近しい人を亡くした経験が無いので、残された側の気持ちとか心境がどちらへ向かっていくのかとかその後の受け入れ方とか、そういうのが映された画面で見ている部分しか分からなくて、想像をこうして捲し立てて書いているのですが、もしかしたらそういう経験をした後にこの映画をまた見たら違う物が見えてきたりするのかもしれません。できればそういう経験まだしたくないんですけどね。

もうずっと切なかったんですけど、幽霊が本当に奥さんを愛していたというのが救いというかほっこりポイントですよね。それがまた切なさを助長するんですけども。

本当に、なんでこれからって時に死んでしまうんだ。死亡フラグってやつなのかも知れないけどそんなのあんまりだよなあ。でも死んで、残された人にはまだ生きる先があって、生きなきゃいけないんですよね。死んだら、意識があるのか分からないけど、置いていかれちゃう。でも、残された人は先に行ってしまうけど決していなくなった人を捨てるわけでは無い、一緒に過ごした日の事はちゃんと存在しているんだって、最後の奥さんのメモにそういう事が書いてあればいいなあなんて思った。そんな意味が込められた、単純で短いありふれた文であれば良いなあ。楽しかった、とかそれだけでも。

 

以上です。私にしては感想でめっちゃ長文書いたな。別に映画評論ブログでもなんでもないんだけど。

それだけ考察の余地がある映画でした。